[Shadowrun: Hong Kong] Intermission 1
Shadowrun: Hong Kong のプレイ日記的なもの。ダイアログの翻訳を織り交ぜつつ、シナリオを追いかけていきます。
幕間 1―Kindly Cheng と今後について話し合う
「起きろ!Kindly Cheng のとこに行く約束だろ!」
Duncan に激しく肩を揺さぶられてようやく目が覚めた。
昨晩見た夢を思い出すと息が詰まる。ガラスと金属のトンネル、遠くにそびえ立つ荘厳な人影、真っ暗な入り口、そして「歯」。Duncan によると、寝台でのたうち回り、何かを掴もうともがいていたらしい。
悪い夢といえば Duncan も昨晩は眠れなかったようだ。まぁ、昨日は色々ありすぎた…悪夢の1つや2つ見てもおかしくないだろう。
ようやく立ち上がり、船室を出ようとすると Duncan が切り出した。
「この国に留まり続ける限り埒が明かない。警察の発表や報道はフェイクニュースばかりだ。それに、例の監視カメラの映像を見る限り、Raymond が撃たれたところは映っていなかった…Raymond は死んじゃいない、生きてるに違いない。」
【それで、何をどうしたいの?】
「分からない…昔から俺は考えるのが苦手だって知ってるだろ?お前が考え、俺が動く。ガキの頃からそうしてきたじゃないか。」
「あぁ、12のガキに戻った気分だ。パートナーが去り、Raymond も去り、おまけに俺自身も居なくなって、今じゃ悪夢にうなされて眠ることもままならない…もう失うものなんて何も残されてないってな。」
【その通りね。ここからが正念場よ…失ったものを取り返すの。】
「お前とはガキの頃からの付き合いだ、その口調だけで分かるぞ…何か”ヤバいこと”を考えてるな?」
【Kindly Cheng は”私達の”フィクサーになりたがってるんじゃないかしら?】
「”シャドウランナー”か。クソッ、その手があったか…それは俺のやり方じゃない。俺は今でも自分は警官だと思ってる。」
【じゃあ、私は仔馬が欲しいわ。あのね、持ってる手札で勝負するしかないのよ、今は。】
「わかった、わかった。とにかく、トライアドのレディがどう出るか見てみよう。」
麻雀館に入ると、雀牌がぶつかり合う、いつもの小気味良い音は一切聞こえず、代わりにヒソヒソと囁き合う声で満たされていた。それもそのはず、Kindly Cheng の目の前には両腕を縛られた血まみれの男が跪いていたのだ。
トライアドのレディは何事も無かったかのように、「昨晩よく眠れたか」とお決まりの挨拶をしてきた。
【最悪よ、おば様。悪夢を見たわ。】
「それは残念ね。まぁ、ココじゃあの手の悪夢は毎日欠かさない食事みたいなものだからね。もっとも、余所者にはスパイスが効きすぎだとは思うけど。」
「とは言え、悪夢にうなされる方がよっぽどマシでしょ、頭をぶち抜かれるよりは。」
Cheng は跪いている男に向かって雀牌を投げつけながら怒鳴りつける。
「違うかい?このクソ野郎!」
「こいつは私服警官だよ。アンタ達が眠ってる間、タンカーの周りをコソコソ嗅ぎ回ってたところをウチの部下が捕まえてきたのさ。」
「Mr. Bao に感謝してもよくてよ。」
Bao に向かって頷くと、彼もほんの少しだけ頭を動かした。
「それじゃあ、私の友人にもさっき話してくれたことを教えてやってくれないかね?」
血まみれの警官は怯えきった様子で震えながら話し始めた。
「な…何も知らないんだ!昨晩命令があった…それだけなんだ!」
彼は頭をこちらに向けながら続ける。
「お偉いさんの誰かがこの二人を殺せってな。ウチの分署全体であたってる。これ以上のことは本当に何も知らない!」
Cheng はつま先で男の顎を持ち上げながら問いかける。
「お偉いさんねぇ…どれくらい偉いんだい?」
男は頭をガクリと垂れ呟いた。
「一番てっぺん…評議会の中の誰かだ…」
「行政評議会の誰かが”この二人”に死んで欲しいだって?寝言は寝てから言え!」
「ほ、本当だ!信じてくれ!テロリストだと公式に認定したのも、俺達が合法的に二人を始末する為なんだ!」
Cheng は男の髪を鷲掴みにして顔を上に向け、ジッと彼の目を見つめた。しばらくして気が済んだのか手を離し、彼の頭は再び自由になった。
「と言うわけで、理由はともかく、昨晩、行政評議会の誰かが HKPF に対して、シアトルから来た何者でもない人物二人を殺害するように命じたらしい。面白くなって来ただろう?」
【まったく面白くないわ。香港では企業が警察に暗殺を命じられるの?】
心得顔な笑みを浮かべ Cheng は答えた。
「腐敗が社会に根深く浸透した時、人々は腐敗を腐敗と思えなくなるのさ。」
Gobbet が割って入る。
「シアトルと香港は違うからな。シアトルではメガコーポが政府を“コントロール”してだろ?でも、香港ではメガコーポ”が”政府なんだ。」
Is0bel によると、香港を仕切っている評議会の8人のメンバーは企業の取締役会によって選ばれ、主に立法と行政を担う。Gobbet が言う「メガコーポが政府」と言うのは、あながち間違いではない。
「それで、私の客人のことを他に知ってる者は?」
いつもの煙草の灰を男に向けて落としながら Cheng が尋ねる。
「だ、誰も知らない…本当だ!手柄を独り占めしようと思って、他の連中とは一切連絡を取ってない!」
Bao が男の PDA から、外部への連絡の痕跡がないことを確認した。
「そうかい、貴様の誠実さには感謝するよ。」
それは流れるような動作だった。Bao がジャケットからサプレッサー付きのピストルを取り出し、跪く警官の頭に向けて一発の弾丸を撃ち込んだかと思うと、ピストルは元あった場所にスッと収まっていた。
「さて、ココまでではっきりしていることは、我らの親愛なる友人、Raymond Black は九龍城砦で、と言うより九龍城砦の中にある “Prosperity” に関して何かを企んでいたということ。」
雀牌を一つづつ積み上げていく。
「そして、行政評議会のメンバーの誰かが Raymond を始末しなければならなかったということ。」
「さらに、アンタ達も始末しようと試みたということ。」
「あのプラスチック面の男が、いずれ目の前に現れるであろうということ。」
Cheng が積み上がった雀牌を崩し、話を続ける。
「そこで提案だ。私のところで働きなさい。」
「Nightjar と Gutshot が死んで丁度空きが出来た。私はこの街にとって不可欠な“芳しくない仕事”を任せられる、トライアドのメンバーでない“否認可能な人材”を必要としてる。アンタは自分自身の有用性を自ら証明したし、この国では何のコネもない。補充要員としてはちょうど良い。」
【ね、Duncan、私の言った通りになったでしょ?】
「あぁ、お見事だ。」
Cheng は目の前の血溜まりに横たわる死体を顎でしゃくり話を続ける。
「その対価として、こーゆー害虫から守ってやる。アンタ達は私の街では安全に過ごせるし、街の収益も安定する。それから、アンタが企業のスパイ活動やら組織犯罪やら極秘の傭兵任務やらをこなしているあいだ、私のネットワークを使って例のプラスチック面の男を探し、Raymond Black の情報を収集しておこう。」
【そちらが得るものは?】
「カネ、それに付随する諸々の利益はうちのコミュニティに対する大きな助けになる。それに、うちのクライアントとランナーを殺した連中には私も興味があるしね。」
【仕事の割り当ては?】
「こちらでアンタ達の能力に見合った仕事を見繕ってあげるよ。数%の仲介料は取らせてもらうが、信じられないほどの新円をあっという間に稼ぐことができるだろうよ。」
「まとめよう。私のところで働けばカネは稼げるし、私のコネでアンタの知りたい事も調べられる。私の助けなしじゃ何も出来ないよ、かわいそうに。」
「この Kindly Cheng が、アンタのパートナーになってやろうと言ってるんだ。」
Duncan は腰に手を当てたままうつむき、少しだけ頭を揺らした。
「お前の言うとおりになったな…シャドウランナーか。クソッ、警官だった俺は死んだ。俺は乗るぜ。お前はどうする?」
【Ray は生きているかもしれない。影で仕事をこなし、彼に何が起きたのか確かめましょう。】
「よし、決まりだ。それじゃあ、Heoi の施設を開放してやろう。」
この後、Cheng からの仕事の受け方など細々とした連絡事項を受けた。驚いたのは自分がチームのリーダーを命じられたことだった。Is0bel と Gobbet はリーダータイプじゃないし、Duncan は今の様子じゃ自分のことで精一杯という状態。単純な消去法だ。
以後、基本的な連絡は隠れ家にある、このミッションコンピュータ経由で行われる。さっそくメールが数通届いていた。
Kindly Cheng からは簡単な挨拶と既に仕事を3つ用意しているという内容。
Is0bel からは特定のキーワードに関する情報を自動的に収集するよう、このコンピュータをセットアップしてくれたこと、そしてランナーたちの情報交換に使われている Shadowlands BBS の紹介。
Strangler Bao からは Heoi 内の有用な施設について一通りの説明。これを受け、まずは軽く Heoi の街を散策することにした。
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