[Shadowrun:HongKong] City of Darkness 2/2
Shadowrun: Hong Kong のプレイ日記的なもの。ダイアログの翻訳を織り交ぜつつ、シナリオを追いかけていきます。
“City of Darkness” ― SIN を消去する交換条件として Kindly Cheng のメッセージを裏切り者へ届ける
Heoi へと戻る途中、風水の研究をしている学生の元へ立ち寄った。Bao のアジトへ向かいながら、切れた電線、火の着いた古タイヤ、水漏れする水道管を、貰ったノートに書かれている通りに修復してきたからだ。
彼女はフィールドワークを終わらせてくれたことに対して熱い感謝を述べつつ、カバンの中から小さな紙束を取り出した。これは魔法感応者でなくても「気」の状態を調べることが出来る「試験紙」らしい。
特殊な試験紙を一枚ちぎり空気にかざすと、あっという間にどす黒く染まった。
彼女は何度も試験紙を確認し、落胆したようにため息を漏らした。数週間に渡る九龍城砦内の「気」を良くするためのフィールドワークは失敗に終わったようだ。どうやら、周辺に悪い気が溜まるのが速すぎて、地道に風水的に正しい状態を作り出しても追いつかないらしい。
「もうここで出来ることは無いわ…戻ってレポートを書かないと。手伝ってくれて本当にありがとう。でも、あなた達も早く立ち去った方が良いと思う。」
九龍城砦を後にして、Kindly Cheng の待つ麻雀館へ急ぐ。依頼された仕事を完璧にこなしたことを報告し、SIN を消してもらい、次のステップ―それがどうなるかは分からないが―へ進むために。
麻雀館に入り、Kindly Cheng の元へ近づくと、副官が耳打ちするのが見えた。Cheng はこちらを見たまま満足そうに微笑んだ。一滴の血も流さず目的を達成した出来るとは思っていなかったようだ。
「アンタ達が発ってからアレコレ根回しをしててね…」
Cheng はそう言いながら PDA を取り出しボタンを押した。
「…これで注文完了だ。」
「おめでとう、これで今日からSINレスだよ。影の人間さ。」
Duncan は重いため息を吐き、肩を落としながら自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
「こうするより他に無かったんだ、俺達をこんな目に合わせ、Carter を殺した奴を見つけて、Raymond を取り返す為には…」
すると、急に Cheng が片手を上げ話を遮った。
「SIN を消す手はずを整えながら、うちのネットワークで Raymond Black の失踪についても調べておいたよ。」
彼女は注意深く店内を見回し、こちらに近寄る。
「前にアンタが言ったことをじっくり考えたのさ…つまり、うちのランナーを2人殺され、それに関して私が何も動かないことは、私の立場を危うくするだろうということを。確かにあんたの言うとおりだ。」
雀卓の上の PDA をこちらに向けながら Cheng は話を続けた。
「まずは、アンタ達に知らせるべきニュースがある。知りたくないだろうニュースがね。」
PDA の再生ボタンを押しながら Cheng ははっきりとした口調でこう言った。
「Raymond Black は死んだ。」
再生されたニュース映像にはヴィクトリア・ハーバーに立つレポーターが映し出され、そこに Raymond の写真がオーバーラップする。レポーターによると、Raymond は HKPF に逮捕されようとした際に抵抗し、その場で射殺されたという。Raymond がなぜシアトルから香港へ来たのかは不明だが、昨晩のテロリスト―つまり無実の自分たち―と関係している可能性が高いと見て捜査が進められているらしい。
Cheng はニュースが終わる前に画面を閉じ、また別のボタンを押した。
「これで終わりじゃないんだよ、ダーリン。これは昨晩のとある防犯カメラの映像だ。明らかに公式発表と矛盾してるだろ?」
かなり画質の荒い映像で音声は無い。どこかの喫茶店で座っている Raymond が見える。2人の屈強な護衛が両脇を固めている。
数回カメラが切り替わり、別の人物がフレームに収まる。こちらも護衛に囲まれたスーツ姿の男で、颯爽と Raymond へ近づく様子が確認できる。Raymond が立ち上がり、スーツの男へ近づくと、一瞬、顔がはっきりと見えた…白いプラスチックのような顔が。
プラスチック面の男の護衛が銃を抜き、幾つものマズルフラッシュが咲き乱れる。Raymond の護衛の1人が倒れ、彼のサブマシンガンの弾がでたらめに飛びカメラを直撃。画面がホワイトノイズで覆われ、映像はそこで途切れてしまった。
「奴らは警官じゃないし、Raymond は逮捕に抵抗なんかしてないじゃないか!」
Duncan が憤るのも無理もない。気になるのは Raymond と対峙していた謎の男。Is0bel によると、あの顔はマスクではなく、職人技のインプラントに違いないという。
「返って目立って結構だ。必ず見つけ出してやる。」
息巻く Duncan に Kindly Cheng が忠告する。
「だが、どうやって?SIN を消去したことをもう忘れたのかい?アンタ達は完全に孤立している。コネも、カネも、自分の存在を証明する術も無いんだ。少なくともココに居ればサツからは守ってやれるが、この世界でどうやって生き延びるつもりだい?」
Cheng が積み上がった雀牌を手で払い、雀卓に象牙色の牌が散らばる。
「アンタ達には長い夜だったね、長い長い夜だった。」
「今日のところは休むんだ。一晩の安全は保証するよ。プラスチック面の男については明日、また話し合うことにしよう。」
彼女は Gobbet と Is0bel に自分たちを隠れ家へ連れていくよう命じ、この場は解散となった。
Gobbet たちの隠れ家は “Bolthole” と呼ばれる錆だらけの廃タンカーだ。そもそも、この廃タンカーは BTL(Better Than Life – 電脳麻薬の一種) ジャンキーの巣窟となっていたところ、その連中を追い出し現在は Kindly Cheng のもの…ということになっている。
Bolthole には2人の他、機関室にもう一人、気味の悪いロシア人が住み着いているらしい。話しぶりからすると、同じランナーのチームというわけじゃないようだ。
死んだランナー2人、Nightjar と Gutshot が使っていた船室をあてがわれ、ひとまず今夜の寝床は確保できた。
粗末な寝台は板のように固く寝心地は悪かったが、シラミやノミだらけだった独房や、潮気に満ちたレッドモンドに比べると贅沢な方だ。
頭を枕に横たえた瞬間、疲労がどっと溢れ出しまぶたが石のように重く感じられた。そして、睡魔が温かい浴槽のように全身を包み、全てが暗闇に飲み込まれた。
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