[Shadowrun:HongKong] SINless
Shadowrun: Hong Kong のプレイ日記的なもの。ダイアログの翻訳を織り交ぜつつ、シナリオを追いかけていきます。
“SINless” ― 個人情報を抹消する為、香港の裏社会のボスと接触する
Gobbet と Is0bel に導かれるまま、下水道から MTR の線路へ這い出し、Heoi の駅にたどり着いた。
駅から出る前に Gobbet と Is0bel から一通りの説明を受ける。
Kindly Cheng は ”Swift Winds” という雀荘を営んでいる。Gobbet たちは今回の事件の顛末と外国人2人分の SIN を消去する必要があることなどを報告する為に先に向かうので、自分と Duncan は現地で合流することになった。
Heoi は Cheng によって厳重に”保護”された街なので、HKPF の警官はもちろんのこと、監視カメラやドローンなども無い。つまり密売人や闇商人などの聖域というわけだ。
最後に、言うまでもなく Cheng は危険な人物なので決して油断せず、敬意を持って接すること。そして、Heoi の街の住人たちは余所者を嫌うのでまっすぐ Swift Winds まで来ること。と、しっかり言い含めてから、2人は足早に MTR の駅を後にした。
薄暗い駅の構内に Duncan と2人残された。
親しい仲間を失い、育ての父も行方不明。そして、今まで築き上げてきたキャリアをこの世から消去しなければならない…そんな現実を受け止めきれずに困惑する Duncan は、行き場を失った感情を自分にぶつけてきた。
「8年間どこで何をしてた?生きてたなら連絡くらい寄越せただろう?!」
Duncan の一言で8年前の記憶が鮮明に蘇る。雪のちらつく真夜中に、Raymond の家の側の路地裏で Duncan に別れを告げた場面が鮮明に。
当時、ある男から”おいしい話”を持ちかけられた。Raymond に知られるわけにはいかなかったし、Duncan を連れていくなど論外だった。
よくある話ではあるが、Raymond の元を去ってから3日後にはどこぞの企業の牢獄に押し込められていた。尋問も、起訴も、抗弁の機会も無かった。
数年の月日が経ち、その企業はどこかの企業に買収され、刷新された取締役会によって”経営改革”が推し進められる。そんな中、数百新円でヤバい内容の秘密保持契約を結ばされ、なんとかシャバへ戻ることができた。
「またイチからやり直そう」
その時はそう思った。
しばらくして Raymond から例のメッセージが届き―どうやって連絡先を突き止めたのかは不明だが― Duncan との再会は叶った。
思い出話はあとだ。今はトライアドのボスとの取引を上手くさばくことに集中しよう。
MTR の駅から出ると、目の前にはボートで仮拵えされた”街”が水面を覆い尽くすように広がっていた。振り返ると、九龍城砦の巨大な壁が立ち並び、まるで唸りを上げているようで不気味に感じられた。Raymond はこの中へ行こうとしていたのだ。
雀荘 ”Swift Winds” は Heoi の中心で不思議な存在感を放っているのですぐに分かった。玄関にはいかついトロールのボディガードが立っているが、特に咎められることなく入店できた。
店内は煙草の煙が充満し、麻雀牌のカチャカチャという音が絶え間なく鳴り続いていた。卓はどこもギャンブラーたちで埋まっていて大盛況の様子である。
「こちらへ。アンタとは話さなきゃならないことが沢山ある」
店の奥に佇む強面の中年女性が声を掛けてきた。よく見ると脇に Gobbet と Is0bel が立っている。2人ともうつむき、肩を落とし、両手は固く握りしめられている。彼女が Kindly Cheng に違いない。
「この役立たず2人が、今夜の件について詳しく教えてくれたよ」
Gobbet と Is0bel の報告は大変正確だったらしく、HKPF に追われている経緯や、自分たちがココへ来た目的など Cheng は全て把握していた。
Cheng が不機嫌そうなのは、手駒のランナーの中でも優秀な2人を失ったことに加え、HKPF から指名手配されている外国人2人を街に入れたことで、他にも危険が及ぶ可能性を憂慮しているからであった。その点について Gobbet が取り繕うとしたが、Cheng から一喝され押し黙ってしまった。
この調子だと、慎重に言葉を選ばなければ、文字通り”魚の餌”にされてしまいそうだ。
現状の確認が一通り終わったところで、Cheng はこう切り出した。
「それはそうと、なんでウチの”クライアント”だった Mr. Blackと会うつもりだったんだい?」
正直に Raymond が育ての親であることを伝えると、彼女は Raymond が依頼に訪れた時の様子を語りだした。
その姿は酷くやつれ、半開きで虚ろな目をして、足を引きずり、誰が見ても正常な状態では無かった。そして、会合の終わりにこう呟いた。
「あそこに Prosperity を残してきた」
Cheng の話が本当であれば、Raymond は 「Prosperity(繁栄、隆盛)」 を求めて世界一危険なスラム街の1つである九龍城砦へ入ろうとしていたということだ。確かに正気の沙汰とは思えない。
「よし、本題に入ろう」
Cheng は新しい煙草に火を付けながら話題を戻した。
下水道での Gobbet 達の話は本当だった。Kindly Cheng が片手を振れば2人の SIN は管理データベースから抹消される。既に聞いているように、この作業は簡単ではない。数多の企業や UCAS(United Canadian and American State―シアトルが属する国家) 政府との”コネ”が必要になる。
そして、その”コネ”をこの Kindly Cheng という人物は持っているのだ。
Cheng にはもう一つ選択肢がある。HKPF に嗅ぎつけられる前に目の前の外国人2人を始末して死体を秘密裏に処分してしまうという選択肢が。
【手駒のランナー2人を理由もよくわからないまま失った、あなたのフィクサーとしての評判はどうなる?】
苦し紛れにこう答えるしかなかった。
「なかなか賢いお嬢ちゃんじゃないか、ん?」
Cheng はあごに手をやり冷たい笑みを返した。
「確かに、私は”デリケートな”状況に立たされてる。だけどね、それはアンタたちが生きてようが死んでようが、その状況は何も変わらないんだよ。」
長い沈黙が続く。Cheng はあごに手を置いたまま、こちらをじっと見つめ続け熟考している。
「アンタの勝ちだ。賢い子は嫌いじゃないよ、気に入った。」
「アンタたち2人の SIN は抹消される。それは保証しよう。だけどね、私のネットワークは安くない…分かるね?」
ココまでは想定内。だが、対価に見合う新円など持ち合わせていない。
Cheng の要求はこうだ。九龍城砦内部の Yellow Lotus を取り仕切っている部下 ”Strangler Bao” がささやかな反乱を起こした。その Bao に対して自分の立場を”思い出させるため”のメッセージが入ったメモリースティックを届けるというのが主目標。それと、
「Bao の部下は”私の”部下だということは肝に銘じておくんだね。」
ということで、九龍城砦の中でのドンパチは避けなければならない。これは副目標だが、今の状況で Cheng の意思に反するのはよろしくないだろう。
加えて、九龍城砦の案内役として Gobbet か Is0bel のどちらか片方を連れて行く許可も得た。この仕事を終わらせて SINless になった後どうするのか。それはその時に考えるしかない。
【最後にひとつ。あなたが Raymond の失踪に関与していないという根拠は?】
「関与?無いよそんなもの。だけど、アンタが信じようが信じまいが知ったことじゃない。まぁ、サツの裏で糸を引いてるのは企業の連中で、決して Kindly Cheng じゃないってのは誰でも知ってることだけどね。」
「それとね、私がアンタ達を消すなら、今頃とっくに水の底で腐ってるよ?」
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